エネマネ最新事情(40) ~エアコンの仕組みで発電する?海洋温度差発電は浅海と深海の温度差がカギ~

    みかドン ミカどん海運大手の商船三井が海洋温度差発電の実用化に乗り出しました。海洋温度差発電はその名の通り、浅海と深海の海水の温度差を利用して発電するものです。では温度差でなぜ発電できるのでしょうか?

    商船三井が海洋温度差発電の実用化に乗り出す

     

    海洋温度差発電は浅海と深海の海水の温度差を利用して発電するものです。燃料を使わない発電方式のためCO2を排出せず、副産物として深層海水を多用途に活用できるなどメリットが大きい反面、設備の建設費や保守・運営を含めた発電コストが高額になるのが難点です。

    そのためまだ商用化はされておらず、世界的に見ても日本やハワイなど数か所に実証設備があるのみです。その海洋温度差発電に海運大手の商船三井がこの夏から本格的な実用を目指して取り組み始めました。

    商船三井は佐賀大学と共に、沖縄県の久米島にある既存の実証施設の運営に今年(2022年春)から参画を開始。そして7月には別途モーリシャスでの実証調査がNEDOの国際実証助成事業にも採択され(ゼネシス、佐賀大学との共同事業)、着々と準備を整えつつあるようです。

    同社ではこれらの実証事業で得た知見を基に、2025年を目途に町内で1000kW級の発電設備の新設、稼働を目指し、ゆくゆくは海洋温度差発電を事業化して国際的なビジネスに発展させたい考えです。

    では海洋温度差発電とはそもそもどういったしくみなのでしょうか。

    低い沸点の冷媒を温かい表層海水で沸騰させて発電

    海洋温度差発電にはいくつかの方式がありますが、現在国際的に主流になっているのは代替えフロンやアンモニアなど沸点の低い冷媒を循環させる方式です。

    具体的には代替えフロンやアンモニアを浅海の温かい海水で沸騰させ、その蒸気の力で発電機のタービンを回します。

    役目を終えた冷媒は深海の冷たい海水で冷やされて再びに液体に戻ります。この繰り返しで発電し続けるのが海洋温度差発電です。

    蒸気でタービンを回すという点では一般的な火力発電と同じですが、冷媒の気化と液化を利用するところはエアコンにそっくりですよね。

    エアコンは冷媒が気化するときに周囲から熱を奪うしくみで空気を冷やしますが、海洋温度差発電は熱の変化を外には漏らさず気化した時の蒸気だけを活用するところが大きな違いです。そのため周囲の海洋環境が変わることはありません。

    現在、沖縄にある海洋温度差発電施設(事業開始2012年、発電開始2013年)は日本で唯一の実証施設であるばかりでなく、世界でも初めての施設として諸外国から多くの見学者を受け入れてきました。

    建物は地上にありますが、これを事業化していくためには大規模化が必須です。10MW 以上の大型設備を作る場合は取水量も大幅に増えるので、巨大な垂直管で大量に海水を取り込める洋上式(浮体式)に移行せざるを得ませんが、現在、本格的に稼働している浮体式の洋上実証施設は世界のどこにもないようです(米国やフランスでは計画中)。

    高いポテンシャルでも高額な建設コストが課題

    2015年、日本に次いで世界で2番目に作られたハワイの海洋温度差発電実証施設(105kw)(画像:Enviro Friendly

    海洋温度差発電は表層海水と深層海水との温度差が年間平均で15℃~20℃以上ある亜熱帯、熱帯地域で可能な発電方式です。

    そのため建設できる地域は世界でも限られますが(日本では沖縄周辺の他、小笠原諸島などが該当)、変動が大きい他の再生可能エネルギーに比べて常に安定した電力が得られるのが魅力です。また地球上に豊富にある海水を使用する点や環境に影響を与えない点も注目されています。

    100kWの太陽光発電(画像:売電王

    課題はやはり高額な建設費です。現在稼働している日本とハワイの実証施設は共に出力が100kW級ですが、同じ100kW級の太陽光発電設備と写真で比較すると、コストの高さがイメージできると思います。

    今後、海洋温度差発電が実用化されていくためには、設備の大規模化や国の助成だけでなく(現在日本ではFITの対象外)、設備の利点を生かした各国周辺地域の産業開発と合わせて総合的に取り組む必要が出てくると思われます。

    具体的には取水した深海の冷水を地域冷房に活用したり、冷水を地面のパイプに通して土壌を冷やせば暖かい地域でも涼しい地域の作物が栽培できます。また栄養が豊富で冷たい深層の海水を使えば熱帯・亜熱帯で冷水域の魚も養殖することができるそうです。

    ほかにも一部のしくみは海水の淡水化にも活用できるようですが、身近なところで言えば深層海洋水は化粧品としても近年人気ですよね。

    世界で最初に海洋温度差発電の実証施設をつくったのは日本ですが、現在は他国も猛追してきています。このたび実用化に名乗りを挙げた商船三井が事業をどのように展開していくのか興味のあるところです。

    (ミカドONLINE編集部)


    参考/引用記事:クリーンエネ「海洋温度差発電」 商船三井が実用化へ モーリシャスにおける海洋温度差発電の実証要件適合性等調査がNEDO事業に採択~沖縄県久米島での実証設備運営への参画に加え、海洋再生可能エネルギーの早期実用化を目指す~ 沖縄県海洋温度差発電実証設備 など

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