『世界』メールマガジン/2025年11月号【特集1: あなたと移民】 【特集2:軋む医療、命のゆくえ】
2025/10/08 (Wed) 11:00
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■■ 『世界』メールマガジン/2025年11月号
■■ vol.#0125
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■『世界』2025年11月号(第999号)好評発売中
2025年10月8日発行
定価1045円(税込)
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▼本号の目次
特集1/特集2/注目記事/世界の潮/本との出会い/連載/編集後記/読者談話室・投稿募集/イベント情報/『世界』臨時増刊月号のご案内/『世界』から生まれた本/「WEB世界」のご案内
┏━━━┓
┃特集 1┃あなたと移民
┗━━━╋…────────────────────────────────
移民政策の「失われた三〇年」を超えて
小井土彰宏(亜細亜大学)
「外国人」という境界──制度と人びとの相克の歴史から
李英美(京都大学)
トランプさんに足並み揃
望月優大(ライター)
拡大する「内なる敵」のレッテル──排外主義のメカニズム
森千香子(同志社大学)
〈座談会〉
難民の友との日々 楽しむことでプロテスト
金井真紀(文筆家、イラストレーター)×小林麻里(難民自立支援ネットワーク)×伏見操(翻訳家)
アフリカ・ホームタウン騒動──国際交流と多文化共生のはざまで
松本尚之(横浜国立大学)
┏━━━┓
┃特集 2┃軋む医療、命のゆくえ
┗━━━╋…────────────────────────────────
診療科偏在 医師不足の根源
高久玲音(一橋大学)
救急医療「最後の受け皿」の現場から──集約化と機能分担で命を守る
山本尚範(名古屋大学)
〈インタビュー〉
安心して子どもを産み育てる──そのために大学病院ができること
銘苅桂子(琉球大学)
「医療の無駄」を問いなおす──無価値医療の実態調査から
宮脇敦士(筑波大学)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆注目記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
パレスチナ「象徴的国家承認」が意味するもの
錦田愛子(慶應義塾大学)
アメリカを揺るがすキリスト教ナショナリズムの本質
加藤喜之(立教大学)
「最後の自民党総裁」──石破政権とは何だったか
高橋純子(朝日新聞)
ストーカー対策最前線──(前編)警察相談に行くとき知っておくとよいこと
内澤旬子(文筆家)
〈連載〉
最後は教育なのか? 第12回 保育園は誰のため──普光院亜紀さんに聞く
武田砂鉄(ライター)
〈連載〉
親愛なる身体へ 第3回 ザクセンハウゼンに想う(前編)
李琴峰(作家)
〈スケッチ〉
タイガースは優勝したけれど
金水 敏(日本語学者)
〈シリーズ夜店〉
災害死を最小化するということ──「人」から見つめ直す防災研究
小山真紀(岐阜大学)
バレンシア豪雨災害からの一年 市民主導の復興のかたち
工藤律子(ジャーナリスト)、撮影=篠田有史(フォトジャーナリスト)
問題は不作ではなく政策だ──令和のコメ騒動を考える
牧下圭貴(はますかむすび店主)
外国籍教員 教育現場に残存する「差別の壁」
中村一成(ジャーナリスト)
〈講演録〉
戦後50年+30年としての現在から、世界に言葉を与える
解説=伊達聖伸(東京大学)
来たるべき「戦後」について
高橋哲哉(東京大学名誉教授)
戦後秩序を否定するアメリカ──日本の選択
三牧聖子(同志社大学)
距離の問題──あるいは戦争と批評
須藤輝彦(東京大学)
この社会の社会学 第10回 「感情」の時代を捉える
牧野智和(大妻女子大学)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇世界の潮
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇クマの市街地侵入に誰が立ち向かうのか──緊急銃猟制度と捕獲者
佐藤喜和(酪農学園大学)
◇怒れる人民の復権か? インドネシア・八月デモと暴動の深層
岡本正明(京都大学)
◇洋上風力発電 三菱商事連合の事業撤退から考える
大林ミカ、田中いずみ(自然エネルギー財団)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇本との出会い
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇「テクノロジー左派」復権へのマニフェスト──『PLURALITY』
神里達博(千葉大学)
◇本とチェック 第30回(最終回) Kビレッジだなんて
金承福(クオン代表)
◇読書・観賞日記 読んで、観て、聴いて
中村佑子(作家/映像作家)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●連載
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
隣のジャーナリズム 「隣」のない仕事
石村博子(ノンフィクションライター)
言葉と言葉のかくれんぼ 第19回 三角好き
チョン・スユン(翻訳家)
ハンセン病詩人 韓何雲の素顔 第2回 「癩詩人事件」の顛末
吉川 凪(作家、翻訳家)
「戦後」解体 第8回 協同労働で「戦後」を編み直す
古波藏契(東京科学大学)
午前1時のメディアタイムズ 第8回 チャーリー・カークと政治の霊性
若林恵(編集者/黒鳥社)
原発事故 検証の空白 第5回 消えた238点の試料と新しい知見
吉田千亜(ライター)
気候再生のために 第38回 「1.5℃」を超えても絶望しないために
江守正多(東京大学)
脳力のレッスン(280) ≪特別篇≫ 戦後八〇年への沈思熟考(後篇)
寺島実郎
片山善博の「日本を診る」(192) 本当に「解党的出直し」が必要だ
片山善博(大正大学)
ドキュメント激動の南北朝鮮 第339回(25・8~9)
編集部
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○記憶をもった鏡 タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス 『Future Memories』
戸田昌子(写真史家)
○岩波俳句
選・文 池田澄子(俳人)
○アムネスティ通信
○読者談話室
○編集後記
○表紙画
土屋未久(表紙 隣合う 2025、裏表紙 支え 2025)
○キャラクター・扉絵
西村ツチカ
○アートディレクション
須田杏菜
○本文デザイン
大原由衣+都井美穂子+國分 陽
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編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ロシア東部の沿岸都市スーチャンの空に、よさこい節が響く。カネフスキー監督の特集上映で『動くな、死ね、甦れ!』を20年ぶりに観た。第二次大戦直後、不良少年ワレルカが暮らす炭鉱町の線路沿いで民謡を歌うのは、捕虜とされ強制労働にあたる元日本兵だ。収容所で精神を病んだ知識人、酔っ払い、強盗団……スクリーンを行き交う寄る辺ない人たちの中に、つい日本の民間人抑留者の姿を探してしまう。
石村博子さんは著書『脱露』で、戦後サハリン州となった南樺太(みなみからふと)で逮捕され、ラーゲリに送り込まれた民間人たちの知られざる足跡を描きだしている。出所後も強制移住先でただ一人の日本人として生きた彼らは、政府の戦後処理によっても切り捨てられ、長く「存在しない者」とされてきた。
「『外国人』という枠組みは、人びとの複雑な移動の歴史を単線的にとらえ直すことで成り立ってきた」。李英美さんは、解放後の朝鮮人と台湾人を一律に外国人とした日本政府の線引きによって、旧植民地出身者と同時に、日本人とされる人々の多様な移動の歴史性もまた無視されていったという。
「日本人」「外国人」という二項対立の枠組みで見えなくなるものは何か。移民の受入れ賛成/反対という構図の不毛な論争を繰り返してはならない、という「失われた三〇年」の教訓(特集1 小井土彰宏さん)も重い。
まかり通ってはならないことが次々と日常に紛れていく。米国防総省を戦争省と呼ぶよう指示する大統領令が署名されたとの短いニュース映像が流れた際、これは夢かと疑った。
九月に観た『野良豚(いのしし)Wild Boar』は、国家安全維持法以前、2012年香港初演の戯曲を文学座座員インディー・チャンさんが翻訳・演出した作品だ。
しがらみの多い組織を離れ、新しい新聞社を立ち上げた記者が、政府の巨大開発事業の闇を追及するうち権力側に取り込まれる。その屈折が政治圧力でなく、「単なる一般市民」を名乗り、真相などいらないという女性との対決を経てもたらされることが、黒い澱(おり)のように心に残る。満席の場内には広東語を話す人も多かった。上演後の挨拶でチャンさんは、この劇は香港のために上演したわけではない、日本の人たちが目の前のメディアについて考えるきっかけとなればと語った。檻を破る野生の猪のように一緒に叫ぼう、とも。
JICAアフリカ・ホームタウン構想に対し自治体への抗議が殺到、差別的な主張により事業撤回の事態となった。この騒動を淡々と伝えるメディアを冷静とみていいものか。
「誤りを受け容れることは、それを擁護することよりはるかに大きな道徳と勇気を要するものなのだ。たとえその誤りを、国民全体が共有しているとしても」。今号で須藤輝彦さんは、加藤典洋さんの批評の構えを説明するなか、チェコスロヴァキア初代大統領となったマサリクの言葉を引いている。
戦争という過ちを止められなかった。その悔恨から生まれた小誌は次号で1000号を迎えます。
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読者談話室・投稿募集
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投稿要項:800字以内
身近な話題や本誌へのご意見、ご感想などをお寄せください。住所・氏名・年齢・職業・電話番号を明記の上、「世界」編集部読者談話室係まで。掲載者には「世界」オリジナル図書カードを進呈。投稿原稿の返却、採否の連絡はいたしません。二重投稿はお断りします。また、文意を損なわない範囲で手を加えさせていただくことがあります。どうぞご了承ください。
WEB投稿:https://www.iwanami.co.jp/sekai_lounge/
メール投稿:sekai@iwanami.co.jp
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~~『世界』から生まれた本~~
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◎ケアの物語 フランケンシュタインからはじめる(岩波新書)
小川 公代
定価1100円
https://iwnm.jp/432071
強者が押しつける「正義」の物語ではなく、尊厳を踏みにじられた人々が紡ぐ〈小さな物語〉を求めて。
◎ブラック・カルチャー──大西洋を旅する声と音(岩波新書)
中村 隆之
定価1056円
https://iwnm.jp/432061
ブラック・カルチャーを貫く、アフリカ帰還という主題。音楽、文学、アートからその歴史と現在を旅する。
◎魂の教育──よい本は時を超えて人を動かす
森本 あんり
定価3190円
https://iwnm.jp/061669
『世界』好評連載「ボナエ・リテラエ」で紡がれた、実存をかけた神学遍歴の先の、ある救済の物語。
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~~「WEB世界」のご案内~~
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雑誌『世界』のWEB版もぜひ、ご覧ください
https://websekai.iwanami.co.jp/
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岩波書店営業部読者係(TEL:03-5210-4111,FAX:03-3263-6999)
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┃特集 1┃あなたと移民
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移民政策の「失われた三〇年」を超えて
小井土彰宏(亜細亜大学)
「外国人」という境界──制度と人びとの相克の歴史から
李英美(京都大学)
トランプさんに足並み揃
望月優大(ライター)
拡大する「内なる敵」のレッテル──排外主義のメカニズム
森千香子(同志社大学)
〈座談会〉
難民の友との日々 楽しむことでプロテスト
金井真紀(文筆家、イラストレーター)×小林麻里(難民自立支援ネットワーク)×伏見操(翻訳家)
アフリカ・ホームタウン騒動──国際交流と多文化共生のはざまで
松本尚之(横浜国立大学)
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┃特集 2┃軋む医療、命のゆくえ
┗━━━╋…────────────────────────────────
診療科偏在 医師不足の根源
高久玲音(一橋大学)
救急医療「最後の受け皿」の現場から──集約化と機能分担で命を守る
山本尚範(名古屋大学)
〈インタビュー〉
安心して子どもを産み育てる──そのために大学病院ができること
銘苅桂子(琉球大学)
「医療の無駄」を問いなおす──無価値医療の実態調査から
宮脇敦士(筑波大学)
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◆注目記事
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パレスチナ「象徴的国家承認」が意味するもの
錦田愛子(慶應義塾大学)
アメリカを揺るがすキリスト教ナショナリズムの本質
加藤喜之(立教大学)
「最後の自民党総裁」──石破政権とは何だったか
高橋純子(朝日新聞)
ストーカー対策最前線──(前編)警察相談に行くとき知っておくとよいこと
内澤旬子(文筆家)
〈連載〉
最後は教育なのか? 第12回 保育園は誰のため──普光院亜紀さんに聞く
武田砂鉄(ライター)
〈連載〉
親愛なる身体へ 第3回 ザクセンハウゼンに想う(前編)
李琴峰(作家)
〈スケッチ〉
タイガースは優勝したけれど
金水 敏(日本語学者)
〈シリーズ夜店〉
災害死を最小化するということ──「人」から見つめ直す防災研究
小山真紀(岐阜大学)
バレンシア豪雨災害からの一年 市民主導の復興のかたち
工藤律子(ジャーナリスト)、撮影=篠田有史(フォトジャーナリスト)
問題は不作ではなく政策だ──令和のコメ騒動を考える
牧下圭貴(はますかむすび店主)
外国籍教員 教育現場に残存する「差別の壁」
中村一成(ジャーナリスト)
〈講演録〉
戦後50年+30年としての現在から、世界に言葉を与える
解説=伊達聖伸(東京大学)
来たるべき「戦後」について
高橋哲哉(東京大学名誉教授)
戦後秩序を否定するアメリカ──日本の選択
三牧聖子(同志社大学)
距離の問題──あるいは戦争と批評
須藤輝彦(東京大学)
この社会の社会学 第10回 「感情」の時代を捉える
牧野智和(大妻女子大学)
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◇世界の潮
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◇クマの市街地侵入に誰が立ち向かうのか──緊急銃猟制度と捕獲者
佐藤喜和(酪農学園大学)
◇怒れる人民の復権か? インドネシア・八月デモと暴動の深層
岡本正明(京都大学)
◇洋上風力発電 三菱商事連合の事業撤退から考える
大林ミカ、田中いずみ(自然エネルギー財団)
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◇本との出会い
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◇「テクノロジー左派」復権へのマニフェスト──『PLURALITY』
神里達博(千葉大学)
◇本とチェック 第30回(最終回) Kビレッジだなんて
金承福(クオン代表)
◇読書・観賞日記 読んで、観て、聴いて
中村佑子(作家/映像作家)
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●連載
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隣のジャーナリズム 「隣」のない仕事
石村博子(ノンフィクションライター)
言葉と言葉のかくれんぼ 第19回 三角好き
チョン・スユン(翻訳家)
ハンセン病詩人 韓何雲の素顔 第2回 「癩詩人事件」の顛末
吉川 凪(作家、翻訳家)
「戦後」解体 第8回 協同労働で「戦後」を編み直す
古波藏契(東京科学大学)
午前1時のメディアタイムズ 第8回 チャーリー・カークと政治の霊性
若林恵(編集者/黒鳥社)
原発事故 検証の空白 第5回 消えた238点の試料と新しい知見
吉田千亜(ライター)
気候再生のために 第38回 「1.5℃」を超えても絶望しないために
江守正多(東京大学)
脳力のレッスン(280) ≪特別篇≫ 戦後八〇年への沈思熟考(後篇)
寺島実郎
片山善博の「日本を診る」(192) 本当に「解党的出直し」が必要だ
片山善博(大正大学)
ドキュメント激動の南北朝鮮 第339回(25・8~9)
編集部
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○記憶をもった鏡 タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス 『Future Memories』
戸田昌子(写真史家)
○岩波俳句
選・文 池田澄子(俳人)
○アムネスティ通信
○読者談話室
○編集後記
○表紙画
土屋未久(表紙 隣合う 2025、裏表紙 支え 2025)
○キャラクター・扉絵
西村ツチカ
○アートディレクション
須田杏菜
○本文デザイン
大原由衣+都井美穂子+國分 陽
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編集後記
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ロシア東部の沿岸都市スーチャンの空に、よさこい節が響く。カネフスキー監督の特集上映で『動くな、死ね、甦れ!』を20年ぶりに観た。第二次大戦直後、不良少年ワレルカが暮らす炭鉱町の線路沿いで民謡を歌うのは、捕虜とされ強制労働にあたる元日本兵だ。収容所で精神を病んだ知識人、酔っ払い、強盗団……スクリーンを行き交う寄る辺ない人たちの中に、つい日本の民間人抑留者の姿を探してしまう。
石村博子さんは著書『脱露』で、戦後サハリン州となった南樺太(みなみからふと)で逮捕され、ラーゲリに送り込まれた民間人たちの知られざる足跡を描きだしている。出所後も強制移住先でただ一人の日本人として生きた彼らは、政府の戦後処理によっても切り捨てられ、長く「存在しない者」とされてきた。
「『外国人』という枠組みは、人びとの複雑な移動の歴史を単線的にとらえ直すことで成り立ってきた」。李英美さんは、解放後の朝鮮人と台湾人を一律に外国人とした日本政府の線引きによって、旧植民地出身者と同時に、日本人とされる人々の多様な移動の歴史性もまた無視されていったという。
「日本人」「外国人」という二項対立の枠組みで見えなくなるものは何か。移民の受入れ賛成/反対という構図の不毛な論争を繰り返してはならない、という「失われた三〇年」の教訓(特集1 小井土彰宏さん)も重い。
まかり通ってはならないことが次々と日常に紛れていく。米国防総省を戦争省と呼ぶよう指示する大統領令が署名されたとの短いニュース映像が流れた際、これは夢かと疑った。
九月に観た『野良豚(いのしし)Wild Boar』は、国家安全維持法以前、2012年香港初演の戯曲を文学座座員インディー・チャンさんが翻訳・演出した作品だ。
しがらみの多い組織を離れ、新しい新聞社を立ち上げた記者が、政府の巨大開発事業の闇を追及するうち権力側に取り込まれる。その屈折が政治圧力でなく、「単なる一般市民」を名乗り、真相などいらないという女性との対決を経てもたらされることが、黒い澱(おり)のように心に残る。満席の場内には広東語を話す人も多かった。上演後の挨拶でチャンさんは、この劇は香港のために上演したわけではない、日本の人たちが目の前のメディアについて考えるきっかけとなればと語った。檻を破る野生の猪のように一緒に叫ぼう、とも。
JICAアフリカ・ホームタウン構想に対し自治体への抗議が殺到、差別的な主張により事業撤回の事態となった。この騒動を淡々と伝えるメディアを冷静とみていいものか。
「誤りを受け容れることは、それを擁護することよりはるかに大きな道徳と勇気を要するものなのだ。たとえその誤りを、国民全体が共有しているとしても」。今号で須藤輝彦さんは、加藤典洋さんの批評の構えを説明するなか、チェコスロヴァキア初代大統領となったマサリクの言葉を引いている。
戦争という過ちを止められなかった。その悔恨から生まれた小誌は次号で1000号を迎えます。
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読者談話室・投稿募集
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身近な話題や本誌へのご意見、ご感想などをお寄せください。住所・氏名・年齢・職業・電話番号を明記の上、「世界」編集部読者談話室係まで。掲載者には「世界」オリジナル図書カードを進呈。投稿原稿の返却、採否の連絡はいたしません。二重投稿はお断りします。また、文意を損なわない範囲で手を加えさせていただくことがあります。どうぞご了承ください。
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小川 公代
定価1100円
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◎ブラック・カルチャー──大西洋を旅する声と音(岩波新書)
中村 隆之
定価1056円
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ブラック・カルチャーを貫く、アフリカ帰還という主題。音楽、文学、アートからその歴史と現在を旅する。
◎魂の教育──よい本は時を超えて人を動かす
森本 あんり
定価3190円
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