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■■　岩波書店　自然科学書案内／2023年9月号
■■　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 vol.#0153
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「家族への感謝」の向こう側
　著者の方々に発破をかけて、鬼のように原稿の取り立てをする――編集者の仕事として、マンガ的につくりあげられたこのイメージは、あながち嘘でもありません（鬼、かどうかはともかく）。しかし、こと小社のようなアカデミアに近い出版社では、「取り立て」の相手はかなりしばしば研究者です。つとに知られている通り、いまの研究者はとても忙しい。私たちの商売は、そんな研究者の方々の、いわば時間外労働に依存してきた……と言ったところで、「それは違う！」と言い切れる編集者がどれだけいるでしょうか。土日もなく書いていただいてナンボであって、私自身、それに対して疑問をもつことはほとんどありませんでした。
　しかし、自分が子をもったのを機に、家族のケアのあるご家庭の「バックヤード」が透けて見えるようになってしまった。これはとても大きなことでした。なにせ、私の配偶者は研究者であり、ゆえに彼の土日出勤や、終わらない仕事のしわ寄せを食らうのは私です。なぜ、保育園が休みの日曜に、出勤しなければならないのか。なぜ、育児本番の午後6時半から「定例の」会議が入るのか。彼の勤務先へ声を大にして抗議したい！と息巻くものの、同じ音量の抗議はブーメランのように自分にはね返ってきます。なぜこんなに忙しいのに、原稿なんか書かせるのか、と。ときには研究者本人ではなく、その家族の声として……。本の末尾の「あとがき」にはよく、家族への感謝や、執筆のために私生活を犠牲にされてきたことへの申し訳なさが述べられますが、今なら、その向こうに広がる光景、実際の「犠牲」がどれほどのものか、かつてよりもずっとリアルに想像できます。
　昨年12月からスタートした連載「研究者、生活を語る」（雑誌『科学』とウェブマガジン『たねをまく』 https://tanemaki.iwanami.co.jp/categories/1019 の双方で展開）は現在、まさに佳境を迎えています。なんとかここまで進めてきた、そのモチベーションの一つには、上記の「犠牲」への後ろめたさがあることは否めません。もっぱら研究者のお仕事面――「A面」に光をあて、そればかりを尊しとしてきたことへのいわば贖罪として、彼らが「B面」とともに格闘する姿を伝えています（もっとも、このための原稿執筆により、また新たな犠牲が生じていないとは限らないのがつらいところですが……）。残すところあとわずか、この後もどうかお楽しみに。
　と、ここまで書く間にも、体の内側からボコボコとプレッシャーがかかっています。順調にいけば来月から産休、ということで、書籍化はもうしばらくお待ちください。どうぞみなさまお元気で。同じシチュエーションの方々は、ともに頑張ってまいりましょう。（の）

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