『世界』メールマガジン/2019年8月号 【特集1:争点としての消費税】【特集2:出版の未来構想】
2019/07/12 (Fri) 11:00
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■■ 『世界』メールマガジン/2019年8月号
■■ vol.#0050
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■『世界』2019年8月号(第923号)好評発売中
2019年7月8日発行
定価(本体850円+税)
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▼本号の目次
特集/世界の潮/注目記事/連載/グラビア/編集後記/
『世界』から生まれた本/「WEB世界」のご案内
┏━━━┓
┃特集1┃争点としての消費税
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈必要論を撃つ〉
消費増税愚策論
藤井 聡(京都大学)
〈垂直的公平へ〉
社会保障財源論のまやかし――応能負担原則に立ち返った税制改革を
伊藤周平(鹿児島大学)
〈中小企業経営者座談会〉
日本社会の重荷としての消費税
中村高明(紀之国屋会長),沼田道孝(第一経営相談所相談役),近江清(フォー・シーズンズ取締役会長)
〈提言〉
法人税の累進税率化という選択肢――財源を生み出すオルタナティブ
菅隆徳(税理士)
┏━━━┓
┃特集2┃出版の未来構想
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈総論〉
出版のどこから議論すればいいか――出版ウォッチ半世紀の総括
清田義昭(出版ニュース社代表)
〈至高の楽しみ〉
本をとおして人はつながる――読書会という幸福
向井和美(翻訳家,司書)
〈座談会〉
本あるところに,コミュニティ! ――沖縄県産本と読者・作り手・売り手の現在
新城和博(ボーダーインク),宮里ゆり子(リブロ リウボウBC),森本浩平(ジュンク堂書店那覇店)
〈参照軸〉
ドイツ出版界の対応と適応
シュピッツナーゲル典子(ジャーナリスト)
〈激しい変化〉
すべての本を,すべてのチャンネルで,すべてのアカウントに――挑戦し続けるアメリカの出版社
大原ケイ(翻訳エージェント)
〈危機を好機に〉
崩壊と再生の出版産業
星野 渉(文化通信)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆注目記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
〈前進を〉
核軍縮への課題――いま何をなすべきか
川崎 哲(ICAN国際運営委員)
〈国交正常化交渉を〉
拉致問題と米朝平和プロセス
和田春樹(東京大学名誉教授)
〈史料発掘〉
○慰安婦がいた時代――新資料とともに改めてたどる 第1回 異論 流れ止められず
佐藤 純(大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター)
○新資料が語る日本軍毒ガス戦――迫撃第五大隊『戦闘詳報』に見る実態
松野誠也(歴史研究者)
〈独立国なのか?〉
「主権」を侵害する日米地位協定――沖縄県「欧州調査」が暴いた日本政府の“嘘”
前泊博盛(沖縄国際大学)
〈教育行政の崩壊〉
大学無償化法の何が問題か――特異で曖昧な制度設計
小林雅之(桜美林大学)
〈さらなる抑圧の予兆?〉
モーディーはなぜ圧勝したか――二〇一九年インド総選挙の分析と展望
中溝和弥(京都大学)
〈座談会〉
生きづらさに立ち向かう(下)――女性編
前川喜平(元文部科学事務次官)・三浦まり(上智大学)・福島みずほ(参議院議員)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇世界の潮
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇安全保障関連法で変質していく自衛隊――南シナ海・共同訓練とMFO派遣
半田 滋(東京新聞)
◇香港史上最大の民衆闘争
高橋政陽(ジャーナリスト)
◇「トランプ・ドクトリン」はあるのか
会田弘継(青山学院大学)
◇欧州議会選挙――EUとポピュリズムのせめぎあい
庄司克宏(慶應義塾大学)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●連載
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●【新連載・第1回】戦友会狂騒曲(ラプソディ)――おじいさんと若者たちの日々
変調をきたす「戦友会」
遠藤美幸(神田外語大学)
●【新連載・第1回】戦闘機の政治経済史
F-X選定――飛び交う思惑
福好昌治(軍事評論家)
●ルポ 孤塁――消防士たちの3・11【第6回】
届かない情報
吉田千亜(ジャーナリスト)
●すぐそこにある世界【第5回】
アッラーとやおよろず
師岡カリーマ・エルサムニー(文筆家)
●我が総括――体験的戦後メディア史【第8回】
橋本龍太郎の「改革と創造」
田原総一朗(ジャーナリスト)
●【最終回・第24回】アパレル興亡
黒木 亮(作家)
●メディア批評【第140回】
神保太郎(ジャーナリスト)
●脳力のレッスン【208】
仏教の原点と世界化への基点―一七世紀オランダからの視界(その58)
寺島実郎
●片山善博の「日本を診る」【117】
民主主義の最後の砦――最高裁判所裁判官の国民審査
片山善博(早稲田大学)
●但馬日記【第4回】
演劇を教育改革の目玉に
平田オリザ(劇作家)
●お許しいただければ
――思うだに震える(リンド)
訳=行方昭夫(英文学者)
●沖縄(シマ)という窓
島社会を撃つ――ハンセン病市民学会
山城紀子(フリーライター)
●原発月報――(19・5~6)
福島原発事故記録チーム
●ドキュメント激動の南北朝鮮(264)(19・5~6)
編集部
●世界論壇月評
朱建栄・竹田いさみ・吉田文彦・石郷岡建
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○グラビア
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○特別招待作品
Shifting Sands――中国 埋立の都市
シム・チー・イン(写真家)
○ことわざの惑星
金井真紀(イラストレーター)
デザイン= 赤崎正一+ 佐野裕哉
○グラビアについて(公募規定)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○読者投句・岩波俳句
選・文 池田澄子(俳人)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
*読者談話室
*アムネスティ通信
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
誰でも,心からの共感を覚えた時は,それについて人と話したくなるだろう.私の場合は古典の長編小説や蛮勇系ジャーナリストによるルポルタージュを読み終えた時などが,それにあたる.震えるような感動は,それを共に読了した親しい友人がいるときには倍加し,人生における最も貴重な財産として残り続けることになる.
読書会は,その無形の財産形成のための,もっとも有効な手法である.
しかし,デジタル端末全盛期の昨今,とりわけ若い世代では読書会のような場は縁遠いものになっているようだ.非常勤で教えている「編集出版論」の授業に出席する約70名の学生に聞いたところ,読書会を体験した人は皆無だった.
たぶんそうだろうなあ,とは思っていたもの,出版の道に進もうという学生も少なくない母集団でのことだから,ショックだった.「朝読」や「ビブリオバトル」の体験者はいても,読書会はゼロ,ということが,学生の読書環境,ひいてはそのコミュニティの状況を表しているようで,象徴的だった.今号座談会のタイトルではないが,「本あるところに,コミュニティ!」なのである.
昨秋,『プリズン・ブック・クラブ――コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』(アン・ウォームズリー著)を読み,読書会という場が持つ面白さや意味を,これほどよく表現した本はないと思っていたところ,その訳者の向井和美さんの文章を偶然,目にした.版元の紀伊國屋書店が発行する『scripta』誌(2019年冬号)で,向井さんはご自身の読書会体験を記していた.私はそれを圧倒的な共感をもって読み終え,今回の特集では向井さんの寄稿が必須と決めていたのだった.今回,原稿が得られてこれ以上嬉しいことはない.
話は少し変わるが,私の地元,東京の西の八王子で,友人たちと読書会をもっている.そこで最近,シャンタル・ムフの『左派ポピュリズムのために』(明石書店)を読んだ.ムフ自身が書くように西ヨーロッパの政治的文脈に対応した言説戦略であるが,日本における政治的対抗を考える上でも示唆に富んでいる.
ムフは,1980年代以降の新自由主義のヘゲモニーが2008年の金融危機によって揺らぎ,その間隙を排外主義的な右派ポピュリズムが埋めていると指摘する.これに対し,すべての人の自由と平等という民主主義の根源化を掲げた左派ポピュリズムの有効性を説いている.
読書会の後の飲み会(これは常にセットだ)では,当然,ムフの指摘を日本の政治状況でどう考えるかが話題となった.厳格な財政規律を域内各国に求めるEUと異なって,日本は自主的な財政政策が可能など,政治的条件はかなり異なる(ゆえに安倍政権への対抗言説として「反緊縮」というコトバが有効なのかは疑問だ)が,ムフの言う中で私が興味深く思ったのは,左派がヘゲモニーを獲得していく上で参照すべき先行例として,サッチャーの一貫した戦略を記述していることだ.
さて,まもなく参議院選挙である.日本の野党の政治戦略は,どうか.一貫した道筋が描けているか.市民連合をはじめ関係者の努力によって野党が共通政策を掲げ,そこに(2017年総選挙の際と異なって)消費増税中止と辺野古基地建設中止を含めたことは注目すべき点と思う.与党との違いを明確に設定する争点になりうるものだろう.次号以降,選挙結果を含め,検証していきたい.
熊谷伸一郎(本誌編集長)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~『世界』から生まれた本~~
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◎ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV
寺島 実郎
定価(本体1700円+税)
http://iwnm.jp/024533
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~~「WEB世界」のご案内~~
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*WEB版もぜひ、ご覧ください
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■『世界』2019年8月号(第923号)好評発売中
2019年7月8日発行
定価(本体850円+税)
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▼本号の目次
特集/世界の潮/注目記事/連載/グラビア/編集後記/
『世界』から生まれた本/「WEB世界」のご案内
┏━━━┓
┃特集1┃争点としての消費税
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈必要論を撃つ〉
消費増税愚策論
藤井 聡(京都大学)
〈垂直的公平へ〉
社会保障財源論のまやかし――応能負担原則に立ち返った税制改革を
伊藤周平(鹿児島大学)
〈中小企業経営者座談会〉
日本社会の重荷としての消費税
中村高明(紀之国屋会長),沼田道孝(第一経営相談所相談役),近江清(フォー・シーズンズ取締役会長)
〈提言〉
法人税の累進税率化という選択肢――財源を生み出すオルタナティブ
菅隆徳(税理士)
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┃特集2┃出版の未来構想
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈総論〉
出版のどこから議論すればいいか――出版ウォッチ半世紀の総括
清田義昭(出版ニュース社代表)
〈至高の楽しみ〉
本をとおして人はつながる――読書会という幸福
向井和美(翻訳家,司書)
〈座談会〉
本あるところに,コミュニティ! ――沖縄県産本と読者・作り手・売り手の現在
新城和博(ボーダーインク),宮里ゆり子(リブロ リウボウBC),森本浩平(ジュンク堂書店那覇店)
〈参照軸〉
ドイツ出版界の対応と適応
シュピッツナーゲル典子(ジャーナリスト)
〈激しい変化〉
すべての本を,すべてのチャンネルで,すべてのアカウントに――挑戦し続けるアメリカの出版社
大原ケイ(翻訳エージェント)
〈危機を好機に〉
崩壊と再生の出版産業
星野 渉(文化通信)
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◆注目記事
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〈前進を〉
核軍縮への課題――いま何をなすべきか
川崎 哲(ICAN国際運営委員)
〈国交正常化交渉を〉
拉致問題と米朝平和プロセス
和田春樹(東京大学名誉教授)
〈史料発掘〉
○慰安婦がいた時代――新資料とともに改めてたどる 第1回 異論 流れ止められず
佐藤 純(大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター)
○新資料が語る日本軍毒ガス戦――迫撃第五大隊『戦闘詳報』に見る実態
松野誠也(歴史研究者)
〈独立国なのか?〉
「主権」を侵害する日米地位協定――沖縄県「欧州調査」が暴いた日本政府の“嘘”
前泊博盛(沖縄国際大学)
〈教育行政の崩壊〉
大学無償化法の何が問題か――特異で曖昧な制度設計
小林雅之(桜美林大学)
〈さらなる抑圧の予兆?〉
モーディーはなぜ圧勝したか――二〇一九年インド総選挙の分析と展望
中溝和弥(京都大学)
〈座談会〉
生きづらさに立ち向かう(下)――女性編
前川喜平(元文部科学事務次官)・三浦まり(上智大学)・福島みずほ(参議院議員)
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◇世界の潮
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◇安全保障関連法で変質していく自衛隊――南シナ海・共同訓練とMFO派遣
半田 滋(東京新聞)
◇香港史上最大の民衆闘争
高橋政陽(ジャーナリスト)
◇「トランプ・ドクトリン」はあるのか
会田弘継(青山学院大学)
◇欧州議会選挙――EUとポピュリズムのせめぎあい
庄司克宏(慶應義塾大学)
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●連載
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●【新連載・第1回】戦友会狂騒曲(ラプソディ)――おじいさんと若者たちの日々
変調をきたす「戦友会」
遠藤美幸(神田外語大学)
●【新連載・第1回】戦闘機の政治経済史
F-X選定――飛び交う思惑
福好昌治(軍事評論家)
●ルポ 孤塁――消防士たちの3・11【第6回】
届かない情報
吉田千亜(ジャーナリスト)
●すぐそこにある世界【第5回】
アッラーとやおよろず
師岡カリーマ・エルサムニー(文筆家)
●我が総括――体験的戦後メディア史【第8回】
橋本龍太郎の「改革と創造」
田原総一朗(ジャーナリスト)
●【最終回・第24回】アパレル興亡
黒木 亮(作家)
●メディア批評【第140回】
神保太郎(ジャーナリスト)
●脳力のレッスン【208】
仏教の原点と世界化への基点―一七世紀オランダからの視界(その58)
寺島実郎
●片山善博の「日本を診る」【117】
民主主義の最後の砦――最高裁判所裁判官の国民審査
片山善博(早稲田大学)
●但馬日記【第4回】
演劇を教育改革の目玉に
平田オリザ(劇作家)
●お許しいただければ
――思うだに震える(リンド)
訳=行方昭夫(英文学者)
●沖縄(シマ)という窓
島社会を撃つ――ハンセン病市民学会
山城紀子(フリーライター)
●原発月報――(19・5~6)
福島原発事故記録チーム
●ドキュメント激動の南北朝鮮(264)(19・5~6)
編集部
●世界論壇月評
朱建栄・竹田いさみ・吉田文彦・石郷岡建
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○グラビア
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○特別招待作品
Shifting Sands――中国 埋立の都市
シム・チー・イン(写真家)
○ことわざの惑星
金井真紀(イラストレーター)
デザイン= 赤崎正一+ 佐野裕哉
○グラビアについて(公募規定)
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○読者投句・岩波俳句
選・文 池田澄子(俳人)
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*読者談話室
*アムネスティ通信
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◇編集後記
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誰でも,心からの共感を覚えた時は,それについて人と話したくなるだろう.私の場合は古典の長編小説や蛮勇系ジャーナリストによるルポルタージュを読み終えた時などが,それにあたる.震えるような感動は,それを共に読了した親しい友人がいるときには倍加し,人生における最も貴重な財産として残り続けることになる.
読書会は,その無形の財産形成のための,もっとも有効な手法である.
しかし,デジタル端末全盛期の昨今,とりわけ若い世代では読書会のような場は縁遠いものになっているようだ.非常勤で教えている「編集出版論」の授業に出席する約70名の学生に聞いたところ,読書会を体験した人は皆無だった.
たぶんそうだろうなあ,とは思っていたもの,出版の道に進もうという学生も少なくない母集団でのことだから,ショックだった.「朝読」や「ビブリオバトル」の体験者はいても,読書会はゼロ,ということが,学生の読書環境,ひいてはそのコミュニティの状況を表しているようで,象徴的だった.今号座談会のタイトルではないが,「本あるところに,コミュニティ!」なのである.
昨秋,『プリズン・ブック・クラブ――コリンズ・ベイ刑務所読書会の一年』(アン・ウォームズリー著)を読み,読書会という場が持つ面白さや意味を,これほどよく表現した本はないと思っていたところ,その訳者の向井和美さんの文章を偶然,目にした.版元の紀伊國屋書店が発行する『scripta』誌(2019年冬号)で,向井さんはご自身の読書会体験を記していた.私はそれを圧倒的な共感をもって読み終え,今回の特集では向井さんの寄稿が必須と決めていたのだった.今回,原稿が得られてこれ以上嬉しいことはない.
話は少し変わるが,私の地元,東京の西の八王子で,友人たちと読書会をもっている.そこで最近,シャンタル・ムフの『左派ポピュリズムのために』(明石書店)を読んだ.ムフ自身が書くように西ヨーロッパの政治的文脈に対応した言説戦略であるが,日本における政治的対抗を考える上でも示唆に富んでいる.
ムフは,1980年代以降の新自由主義のヘゲモニーが2008年の金融危機によって揺らぎ,その間隙を排外主義的な右派ポピュリズムが埋めていると指摘する.これに対し,すべての人の自由と平等という民主主義の根源化を掲げた左派ポピュリズムの有効性を説いている.
読書会の後の飲み会(これは常にセットだ)では,当然,ムフの指摘を日本の政治状況でどう考えるかが話題となった.厳格な財政規律を域内各国に求めるEUと異なって,日本は自主的な財政政策が可能など,政治的条件はかなり異なる(ゆえに安倍政権への対抗言説として「反緊縮」というコトバが有効なのかは疑問だ)が,ムフの言う中で私が興味深く思ったのは,左派がヘゲモニーを獲得していく上で参照すべき先行例として,サッチャーの一貫した戦略を記述していることだ.
さて,まもなく参議院選挙である.日本の野党の政治戦略は,どうか.一貫した道筋が描けているか.市民連合をはじめ関係者の努力によって野党が共通政策を掲げ,そこに(2017年総選挙の際と異なって)消費増税中止と辺野古基地建設中止を含めたことは注目すべき点と思う.与党との違いを明確に設定する争点になりうるものだろう.次号以降,選挙結果を含め,検証していきたい.
熊谷伸一郎(本誌編集長)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
~~『世界』から生まれた本~~
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寺島 実郎
定価(本体1700円+税)
http://iwnm.jp/024533
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