『世界』メールマガジン/2019年12月号 【特集1:気候クライシス】【特集2:難民を追いつめる日本】
2019/11/11 (Mon) 15:00
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■■ 『世界』メールマガジン/2019年12月号
■■ vol.#0054
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■『世界』2019年12月号(第927号)好評発売中
2019年11月8日発行
定価(本体850円+税)
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▼本号の目次
特集/世界の潮/注目記事/連載/グラビア/編集後記/
『世界』から生まれた本/「WEB世界」のご案内
┏━━━┓
┃特集1┃気候クライシス
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈人類の課題〉
私たちは岐路に立っている――若者たちの厳しいまなざしのもとで
国谷裕子(キャスター)
〈何が起きつつあるか〉
激発する極端気象――このままでは適応不能に
鬼頭昭雄(IPCC評価報告書主執筆者)
〈転機〉
脱炭素社会に向かう世界
高村ゆかり(東京大学)
〈インタビュー〉
時代の転換点となった九月――ビジネスは変わり始めた 日本は?
末吉竹二郎(WWFジャパン会長)
〈フォトエッセイ〉
タンジール 海に沈む島
セバスチャン・レバン(フォト・ジャーナリスト)
〈「未来のための金曜日」座談会〉
大人は気候変動を甘く考えるな
中村涼夏・益子実香・宮崎紗矢香・高橋英恵
〈手記〉
一〇年後のあるべき光景へ――若者がアメリカ合州国を訴えた理由
ヴィック・バレット(環境アクティヴィスト・大学生)
〈構造変革への展望〉
気候変動 vs.若者たち――または,資本主義vs.グリーン・ニューディール
宮前ゆかり(リサーチャー)
┏━━━┓
┃特集2┃難民を追いつめる日本――認定率0.4%の冷酷
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈人権の存立危機〉
ルポ 人権非常事態――死に追いやられる難民申請者
樫田秀樹(ジャーナリスト)
〈難民「仮放免」者座談会〉
わたしたちに人権を!
オブエザ・エリザベス・アルオリウォ,ウチャル・メメット,嶋津まゆみ,金穀中
〈提言〉
まず,人間として迎えよ――難民の置かれた最悪の人権状況とその打破のために
児玉晃一(弁護士)
〈あなたにもできる〉
いまこそ,一歩をふみだす行動を――コミュニティラジオ番組「難民ナウ!」の試みから
宗田勝也(「難民ナウ!」代表)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆注目記事
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
〈対談〉
AI時代,だけど人と向き合う(下)――生きかたを創造しつづける
暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)×川嶋みどり(日本赤十字看護大学名誉教授)
〈報告〉
武器見本市という憲法的不祥事
杉原浩司(武器取引反対ネットワーク)
〈あるべき改革は〉
NHKはぶっ壊すしかないのか――いま公共放送の意義を問う
服部孝章(立教大学名誉教授)
〈訪日を前に〉
橋を架ける――法王フランシスコの旅(下)対話と融和を求めて
植田粧子(共同通信)
〈ルポ〉
ナガサキの未来――被爆者なき時代を見据えて
高瀬 毅(ノンフィクション作家)
〈シンポジウム〉
〇 学問の自由とジェンダー研究――ハンガリーのバックラッシュが物語るもの
アンドレア・ペト(中央ヨーロッパ大学)、訳=生駒夏美(国際基督教大学)
〇 排除と過剰包摂のポリティクス――お茶の水女子大学ジェンダー研究センターの経験
足立眞理子(お茶の水女子大学名誉教授)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇世界の潮
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇〓国(チョ・グク)法相辞任が突きつけた韓国民主主義の課題
堀山明子(毎日新聞)
◇検証 豊洲一年――崩壊する小池都政
岡田 悟(ダイヤモンド編集部記者)
◇ボルソナロ政権誕生から約一年――ブラジル社会はいま
山崎圭一(横浜国立大学)
◇災害多発時代の分散型エネルギーシステム
安田 陽(京都大学)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●連載
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
●〈好評連載〉
ルポ 保育園株式会社【第4回】
給食と玩具が削られる
小林美希(ジャーナリスト)
●〈最終回〉
戦友会狂騒曲(ラプソディ)――おじいさんと若者たちの日々【第5回】
戦友なきあとに
遠藤美幸(神田外語大学)
●〈最終回〉
戦闘機の政治経済史【第5回】
第四次F-X選定――優先される「対米配慮」
福好昌治(軍事評論家)
●メディア批評【第144回】
神保太郎(ジャーナリスト)
●脳力のレッスン【212】
江戸期の仏教への再考察――一七世紀オランダからの視界(その62)
寺島実郎
●片山善博の「日本を診る」【121】
森議員質問事前流出事件から得るべき教訓
片山善博(早稲田大学)
●すぐそこにある世界【第9回】
隣に佇む奇跡
師岡カリーマ・エルサムニー(文筆家)
●我が総括――体験的戦後メディア史【第12回】
安倍政権の「集団的自衛権」への執念
田原総一朗(ジャーナリスト)
●お許しいただければ
「勇気について」(ガードナー)
訳=行方昭夫(英文学者)
●但馬日記【第8回】
斎藤隆夫のまち2
平田オリザ(劇作家)
●沖縄(シマ)という窓
琉球と先住民族の権利
親川志奈子(オキスタ107)
●原発月報――(19・9~10)
福島原発事故記録チーム
●世界論壇月評
朱建栄・竹田いさみ・吉田文彦・石郷岡建
●ドキュメント激動の南北朝鮮【第268回】(19・9~10)
編集部
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○グラビア
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
○特別招待作品
For Future――世界の気候変動ストライキ
○ことわざの惑星
金井真紀(イラストレーター)
デザイン= 赤崎正一 + 佐野裕哉
○グラビアについて(公募規定)
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○読者投句・岩波俳句
選・文 池田澄子(俳人)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
*読者談話室
*アムネスティ通信
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇編集後記
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
カタールのドーハで今年九月末から一〇月にかけて開催された世界陸上選手権では,気温の高さからマラソンは深夜の二三時五九分スタートとなった.それでも猛暑に棄権者が相次ぎ,女子マラソンでは,出場六八人のうち完走は四〇人.鍛えぬかれたアスリートが次々に倒れ,担架に載せられていく衝撃的な光景に,国際オリンピック委員会(IOC)も,ようやく来年の東京もヤバイと気づいたようだ.ドーハ閉幕から二週間のうちに札幌へマラソンを移すと決定した.
「IOCの動きは速かった」という報道も目にしたが,盛夏の東京でフルマラソンを走らせるという企図が,どだい無理であったのだ(本誌も秋開催論などを掲載してきた).小池都知事は巻き返しをはかっているとのことだが,アスリートたちに,マラトンの戦いで伝令をつとめた兵士の運命をなぞらせようというのか.皆が小池氏のような心臓の強さを持っているわけではないのだ.
スタート時刻の夜明け前への変更,かち割り氷を配り,手持ちの扇風機を持たせ,ミストシャワーに人工雪,遮熱性舗装……,あれこれ繰り出される心もとない猛暑対策の数々に,植木不等式氏の名著『ぼくらの哀しき超兵器』(岩波現代全書)を思い出す.
直視すべきだ.もはや地球は,私たちの記憶の中の,一〇年前,二〇年前の姿とは異なっている.急速に温暖化し,不安定化する気候への「適応」対策も,もはや避けられない.だが,このまま抜本的な二酸化炭素排出削減策を講じないのであれば,本号で鬼頭氏が指摘するように,適応すら不可能になる.その先に何が待っているのか,リアリティをもって想像しなければならない.国谷氏が言うように,私たちは岐路に立っているのだ.
今年六月に策定された日本政府の対策(「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」)を見ると,二酸化炭素の回収と貯留,水素社会の実現,蓄電池,原子力,人工光合成といった「哀しき超兵器」路線の対策が目につく.こうした「技術的解決」指向について,今号の宮前論文でも紹介されているナオミ・クライン『これがすべてを変える』に引かれている作家の言葉を記しておきたい.
「現在の世代が,後の世代など存在しないかのように資源を好きなだけ消費することを許すものであり,文明を悲劇的で破滅的な環境破壊へと一直線に向かわせる鎮静剤でしかない.それは人間の行動を変えるという,科学技術によらない困難な作業によってこそ果たされる真の解決を阻むものだ」(同書下巻三九〇頁)
東京オリンピックの次,二〇二四年は,パリである.その開幕日は七月二六日.今夏のパリが経験した史上最高気温42・6℃は七月二五日だった.もはや,オリンピックは持続不可能なのではないか.
自己批判をこめて言えば,私は東京オリンピックの開催そのものは仕方ないと思っていた(招致には反対だったが).招致理由が不純で,過程が不透明で,税金を使いすぎ,二酸化炭素も膨大に出すし,ぜんぜんアスリート・ファーストじゃないとは思っていたが,まあ「平和の祭典」でもあるのだから.しかし,今回,難民「仮放免者」の方々の話を聞き,樫田氏のルポを読んで,考えが変わった.非人道的な状況としか言いようのない,この,もっとも弱い社会的立場に置かれた人々を,さらに苦しめる契機となっているというのだ.こんなオリンピックなど,やめてしまえ.そう痛感している.
熊谷伸一郎(本誌編集長)
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~~『世界』から生まれた本~~
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◎ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV
寺島 実郎
定価(本体1700円+税)
http://iwnm.jp/024533
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▼本号の目次
特集/世界の潮/注目記事/連載/グラビア/編集後記/
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┃特集1┃気候クライシス
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〈人類の課題〉
私たちは岐路に立っている――若者たちの厳しいまなざしのもとで
国谷裕子(キャスター)
〈何が起きつつあるか〉
激発する極端気象――このままでは適応不能に
鬼頭昭雄(IPCC評価報告書主執筆者)
〈転機〉
脱炭素社会に向かう世界
高村ゆかり(東京大学)
〈インタビュー〉
時代の転換点となった九月――ビジネスは変わり始めた 日本は?
末吉竹二郎(WWFジャパン会長)
〈フォトエッセイ〉
タンジール 海に沈む島
セバスチャン・レバン(フォト・ジャーナリスト)
〈「未来のための金曜日」座談会〉
大人は気候変動を甘く考えるな
中村涼夏・益子実香・宮崎紗矢香・高橋英恵
〈手記〉
一〇年後のあるべき光景へ――若者がアメリカ合州国を訴えた理由
ヴィック・バレット(環境アクティヴィスト・大学生)
〈構造変革への展望〉
気候変動 vs.若者たち――または,資本主義vs.グリーン・ニューディール
宮前ゆかり(リサーチャー)
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┃特集2┃難民を追いつめる日本――認定率0.4%の冷酷
┗━━━╋…────────────────────────────────
〈人権の存立危機〉
ルポ 人権非常事態――死に追いやられる難民申請者
樫田秀樹(ジャーナリスト)
〈難民「仮放免」者座談会〉
わたしたちに人権を!
オブエザ・エリザベス・アルオリウォ,ウチャル・メメット,嶋津まゆみ,金穀中
〈提言〉
まず,人間として迎えよ――難民の置かれた最悪の人権状況とその打破のために
児玉晃一(弁護士)
〈あなたにもできる〉
いまこそ,一歩をふみだす行動を――コミュニティラジオ番組「難民ナウ!」の試みから
宗田勝也(「難民ナウ!」代表)
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◆注目記事
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〈対談〉
AI時代,だけど人と向き合う(下)――生きかたを創造しつづける
暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)×川嶋みどり(日本赤十字看護大学名誉教授)
〈報告〉
武器見本市という憲法的不祥事
杉原浩司(武器取引反対ネットワーク)
〈あるべき改革は〉
NHKはぶっ壊すしかないのか――いま公共放送の意義を問う
服部孝章(立教大学名誉教授)
〈訪日を前に〉
橋を架ける――法王フランシスコの旅(下)対話と融和を求めて
植田粧子(共同通信)
〈ルポ〉
ナガサキの未来――被爆者なき時代を見据えて
高瀬 毅(ノンフィクション作家)
〈シンポジウム〉
〇 学問の自由とジェンダー研究――ハンガリーのバックラッシュが物語るもの
アンドレア・ペト(中央ヨーロッパ大学)、訳=生駒夏美(国際基督教大学)
〇 排除と過剰包摂のポリティクス――お茶の水女子大学ジェンダー研究センターの経験
足立眞理子(お茶の水女子大学名誉教授)
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◇世界の潮
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◇〓国(チョ・グク)法相辞任が突きつけた韓国民主主義の課題
堀山明子(毎日新聞)
◇検証 豊洲一年――崩壊する小池都政
岡田 悟(ダイヤモンド編集部記者)
◇ボルソナロ政権誕生から約一年――ブラジル社会はいま
山崎圭一(横浜国立大学)
◇災害多発時代の分散型エネルギーシステム
安田 陽(京都大学)
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●連載
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●〈好評連載〉
ルポ 保育園株式会社【第4回】
給食と玩具が削られる
小林美希(ジャーナリスト)
●〈最終回〉
戦友会狂騒曲(ラプソディ)――おじいさんと若者たちの日々【第5回】
戦友なきあとに
遠藤美幸(神田外語大学)
●〈最終回〉
戦闘機の政治経済史【第5回】
第四次F-X選定――優先される「対米配慮」
福好昌治(軍事評論家)
●メディア批評【第144回】
神保太郎(ジャーナリスト)
●脳力のレッスン【212】
江戸期の仏教への再考察――一七世紀オランダからの視界(その62)
寺島実郎
●片山善博の「日本を診る」【121】
森議員質問事前流出事件から得るべき教訓
片山善博(早稲田大学)
●すぐそこにある世界【第9回】
隣に佇む奇跡
師岡カリーマ・エルサムニー(文筆家)
●我が総括――体験的戦後メディア史【第12回】
安倍政権の「集団的自衛権」への執念
田原総一朗(ジャーナリスト)
●お許しいただければ
「勇気について」(ガードナー)
訳=行方昭夫(英文学者)
●但馬日記【第8回】
斎藤隆夫のまち2
平田オリザ(劇作家)
●沖縄(シマ)という窓
琉球と先住民族の権利
親川志奈子(オキスタ107)
●原発月報――(19・9~10)
福島原発事故記録チーム
●世界論壇月評
朱建栄・竹田いさみ・吉田文彦・石郷岡建
●ドキュメント激動の南北朝鮮【第268回】(19・9~10)
編集部
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○グラビア
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○特別招待作品
For Future――世界の気候変動ストライキ
○ことわざの惑星
金井真紀(イラストレーター)
デザイン= 赤崎正一 + 佐野裕哉
○グラビアについて(公募規定)
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○読者投句・岩波俳句
選・文 池田澄子(俳人)
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*読者談話室
*アムネスティ通信
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◇編集後記
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カタールのドーハで今年九月末から一〇月にかけて開催された世界陸上選手権では,気温の高さからマラソンは深夜の二三時五九分スタートとなった.それでも猛暑に棄権者が相次ぎ,女子マラソンでは,出場六八人のうち完走は四〇人.鍛えぬかれたアスリートが次々に倒れ,担架に載せられていく衝撃的な光景に,国際オリンピック委員会(IOC)も,ようやく来年の東京もヤバイと気づいたようだ.ドーハ閉幕から二週間のうちに札幌へマラソンを移すと決定した.
「IOCの動きは速かった」という報道も目にしたが,盛夏の東京でフルマラソンを走らせるという企図が,どだい無理であったのだ(本誌も秋開催論などを掲載してきた).小池都知事は巻き返しをはかっているとのことだが,アスリートたちに,マラトンの戦いで伝令をつとめた兵士の運命をなぞらせようというのか.皆が小池氏のような心臓の強さを持っているわけではないのだ.
スタート時刻の夜明け前への変更,かち割り氷を配り,手持ちの扇風機を持たせ,ミストシャワーに人工雪,遮熱性舗装……,あれこれ繰り出される心もとない猛暑対策の数々に,植木不等式氏の名著『ぼくらの哀しき超兵器』(岩波現代全書)を思い出す.
直視すべきだ.もはや地球は,私たちの記憶の中の,一〇年前,二〇年前の姿とは異なっている.急速に温暖化し,不安定化する気候への「適応」対策も,もはや避けられない.だが,このまま抜本的な二酸化炭素排出削減策を講じないのであれば,本号で鬼頭氏が指摘するように,適応すら不可能になる.その先に何が待っているのか,リアリティをもって想像しなければならない.国谷氏が言うように,私たちは岐路に立っているのだ.
今年六月に策定された日本政府の対策(「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」)を見ると,二酸化炭素の回収と貯留,水素社会の実現,蓄電池,原子力,人工光合成といった「哀しき超兵器」路線の対策が目につく.こうした「技術的解決」指向について,今号の宮前論文でも紹介されているナオミ・クライン『これがすべてを変える』に引かれている作家の言葉を記しておきたい.
「現在の世代が,後の世代など存在しないかのように資源を好きなだけ消費することを許すものであり,文明を悲劇的で破滅的な環境破壊へと一直線に向かわせる鎮静剤でしかない.それは人間の行動を変えるという,科学技術によらない困難な作業によってこそ果たされる真の解決を阻むものだ」(同書下巻三九〇頁)
東京オリンピックの次,二〇二四年は,パリである.その開幕日は七月二六日.今夏のパリが経験した史上最高気温42・6℃は七月二五日だった.もはや,オリンピックは持続不可能なのではないか.
自己批判をこめて言えば,私は東京オリンピックの開催そのものは仕方ないと思っていた(招致には反対だったが).招致理由が不純で,過程が不透明で,税金を使いすぎ,二酸化炭素も膨大に出すし,ぜんぜんアスリート・ファーストじゃないとは思っていたが,まあ「平和の祭典」でもあるのだから.しかし,今回,難民「仮放免者」の方々の話を聞き,樫田氏のルポを読んで,考えが変わった.非人道的な状況としか言いようのない,この,もっとも弱い社会的立場に置かれた人々を,さらに苦しめる契機となっているというのだ.こんなオリンピックなど,やめてしまえ.そう痛感している.
熊谷伸一郎(本誌編集長)
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◎ひとはなぜ戦争をするのか 脳力のレッスンV
寺島 実郎
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